2007年9月3日月曜日

セールス大学 伊吹卓(キイストンホームページ寄稿より)

第十二回 『君の嫌いな人とも交際せよ』 ㈱商売科学研究所 所長 伊吹卓



■人のことを思っていると波長が合うようになる



 私が「人を思う」という話を初めて聞いたのは遜悟空(本名 藤田文夫)コンサルタントが私の事務所に入社した直後(私が独立して間もなく)のことでした。
「私は部下のA君をどのように育てようかと思いつづけていました。そういう思いで書店へ行ったとき、ある本を見つけ、その本をA君にプレゼントしたいと思って、その本を買いました。そして『本屋でこの本を見つけたとき、君に読ませたいと思ったんだ』といってプレゼントしました。それからもう五年にもなりますが、年賀状に『あの本は私のバイブルです』と書いてくるのです。うれしいですね」こんな話でした。私は感動しました。私には、そのような体験が一度もありませんでした。自分のことで頭がいっぱいで、人のことを思う余裕が少しもなかったのです。私はそのとき、すでに五十歳になっていました。大きな忘れものをしていたような気がしました。



 それにしても私は、人を思うということが下手でした。そのため人に嫌われていたのですが、四十七歳のとき、「人の欠点の裏に必ず長所がある。その長所を見つけてほめよ」ということに気づきました。そういうことで私に「人を思う」という素地が少しできていたので、遜悟空さんの話に感動したのだと思います。
 人の長所は、努力しないと見つからないものです。でも、三年間、呪文のようにいいつづけていた効果があって、私はたくさんの人にほれることができるようになりました。「人を嫌うと嫌われる。人を好くと好かれる」といいます。友人が一人もいないほど孤立していた私に、急に友人が増え始めたのは、そのころからです。このごろでは、波長の合いそうな人が、ひと目でわかるようになりました。波長が合う、合わないということは、どうしようもないことです。
 あるトップ・セールスマンも「波長が合わない・・・と思ったら、そのお客様は他の人にまかすようにしている」といっています。それほど波長が合うということは影響するのです。


■人と波長を合わせる三つの秘訣


 「波長が合う」ということは大切なことです。しかし、ともすると「波長が合う人なんかいない」という気持ちになるものです。私など、若いころは特にそうでした。
このごろになって気づいたのですが「波長」というものは「合う」のではなくて「合わせるもの」です。意地を張っていたらだれとも合うことはないのです。トップ・セールスマンになるような人は、いろいろな人に波長を合わせることが上手いのです。
 お客様と波長を合わせるポイントは、三つあります。


第一 売りたいという気持ちを押さえるようにすること
 売りたいという気持ちがあると、お客様とすぐ対立してしまうことになります。お客様は財布のひもをしめているのですから。


第二 相手の長所を見つけてほめること
 どんな人にも欠点があります。そして、どんな人にも長所があります。残念なことに、欠点はすぐ気づくのですが長所はなかなか見つからないものです。欠点にしか気づかなければ(嫌だな)と感じます。そういう気持ちが反射的に相手に伝わるので嫌われてしまうのです。そういうことでは波長が合うはずがありません。
 相手の長所を見つけると尊敬できます。尊敬すると好きになります。相手を好きになると、自然に心がやわらぎ、波長が合ってきます。だから、相手の長所を見つける努力をすることです。


第三 聞き上手になること
 自己主張ということは、すればするほど相手の考えとズレてくるものです。相手の話を聞いてそれに合わせるようにすれば、いくらでも話の波長を合わせることができるようになります。だからこそ「聞き上手」ということが大切なのです。でも、相手が話をしてくれなければ、聞き上手にはなれません。そこで「問い上手」ということが必要になります。しかし、問い方が下手であれば無視されたり、嫌われたりするでしょう。
 どのようなことを問うとのってくれるのかということは「察し上手」でないとできません。このように考えると「話し上手」には、「察すること」と「問うこと」が必要だということがわかります。特に、察することが重要です。
 それでは察するとは、どういうことでしょうか。察するとは、観察することです。
観察力は、たくさんの人に会い、話をし、怒ったり、笑ったりするたびに育っていきます。だから、人間好きな人は観察力が鋭いものです。その点で現代の若い人は不利です。少子家庭で育ち、学習塾通いのため遊ぶことが少いからです。その上、遊ぶときにはテレビ・ゲームなどで一人遊びをしているからです。


■嫌いな人とも交際してみよ


 本田技研の創業者である本田宗一郎さん(故人)がいった、すばらしい言葉があります。
「君が嫌いな奴を採用しないと、君を越える人材をとれないぞ!」
私は、この言葉をある本で読んだとき(すごいことをいう人だ!)と思いました。私たちはだれでも自己中心で、わがままなものです。自分の好き嫌いの感情だけで決めたがります。私の友人で、かなりおおきなデザイン会社を経営していた人が、ある時、ぼやいていいました。「ふと気がついたら血液型がA型ばかりで、営業をできない奴ばかりです。気づかないうちにそんな人間ばかり採用してしまいました」血液型の問題は別として、自分の好みで選ぶと、とかくこのように片寄った選び方になるものです。同じことが友人関係にもいえます。努力して交際の幅を拡げるようにしないと人間の幅が狭くなってしまうのです。
 「喰わず嫌い」といいます。食べてみたら、おいしかったということはよくあるのです。だから私欲や先入観を捨てることが大切です。私欲を捨てるということは、なかなかできることではありません。私も長い間、失敗しつづけてきましたが、そのためにトコトン行きづまってしまい、大反省をし、やっと脱皮できたのでした。そういう経験をしたあとで気づいたのは、成功をした人たちが早くから「私欲を捨てる」ということに気づいていたということでした。
 私が親しくしている㈱アヴァンティの水嶋洋社長は、高校生のとき友人に「バカになれ!」といわれて、こつぜんと悟ったといいます。また、ある会社に勤めていたとき、彼はトップ・セールスマンであったのですが、ロマンを求めて別の会社に転進しました。
そして(業界が一つ違うと、これほど何も知らないのか!)と気づき、謙虚になることを覚え、どんな人にも質問するようになったといいます。
 「バカになる」とは、私欲を捨てることであり、また、謙虚になることでもあります。
私欲を捨てると、素直に人の心が見えるようになります。そしてそれまでは、強い色メガネで見ていたことに気づきます。黒い色メガネで見ていたら、すべての人が黒い顔に見えてしまいます。それでは、すべての人が嫌な人に見えて、よいおつき合いができなくなってしまうでしょう。
「人と波長が合わない」と考えてるうちは、いつまでたっても合わないでしょう。人との波長は「合わせる」ものです。そのことに気づきさえすれば、人生は限りなく拓けていくのです。


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