2007年9月2日日曜日

セールス大学 伊吹卓(キイストンホームページ寄稿より)

第七回 『商品を売るな、セールスマンを売れ』 ㈱商売科学研究所 所長 伊吹卓



■君はバカ顔をしているからすばらしい



 H社長は、リクルートにいたときにはトップ・セールスマンでならした人です。
そのHさんがいうのです。「人は好き嫌いに敏感でしょう。そして、嫌われたら商売はダメなんです」そして思い出したようにいうのです。「伊吹さんに初めて会ったとき『君はバカ顔しているからいいよ』といわれてビックリしました」
 それはもう十年も前のことで私は、すっかり忘れていて、そんな失礼なことを初対面でいったのかとあわてました。しかし、私ならいった可能性は大ありです。
いつもそういうことを、ほめるつもりでいっているのですから。でも「バカ顔」という言葉だけを取り出してしまうと、非常に失礼な感じがするので恐縮してしまうのです。
「バカ顔」ということは、豊臣秀吉の「サル顔」に似ています。いわば動物的な顔です。こういう顔は、暖く、やわらかく、人なつこい感じがして、だれにでも好かれるのです。かしこそうな顔は、りっぱそうには見えますが、実は冷く、堅く、人を寄せつけない感じがします。このような顔では営業はできません。



 Hさんの顔は、そういう意味で人に好かれる顔でした。私が彼に「バカ顔」といったのなら、そういう意味でいっていたのです。
 実は私は、新しい訪問客にはたいてい「バカ」か「アホ」の尊稱をプレゼントしています。「僕の事務所に来る人は、すごい人ばかりなのです。天才だといいたいのです。でも、そんなことをいっていると僕までそうであるかのようになってしまい世間を歩けなくなります。だいたい、バカな伊吹のところへ来てくださったのだから、あなたもバカなんでしょう。そういわせてくださいよ」「それでけっこうです。私も本当にバカなんです」こんなわけで、私の事務所では「バカ」ということは天才の代名詞になっているのです。もっとも、この場合の天才は「だれでも天才になれる」という意味なのですが・・・。
 このような話が通じる人は、どういうわけか、感覚的なことに敏感です。そして「人に嫌われたらセールスは、おしまいだ」というような味のあることをいうのです。
私がこの言葉に初めて出会ったのは、二十年ほど前のこと。明治生命でトップ・セールスマンとして鳴らしていた阪本享一さんからでした。


■セールスは、断られたらおしまいだ


阪本さんは、明治生命のトップ・セールスマンに与えられるダイヤモンド賞を三十年ももらいつづけた人でした。縁があって長い間、つき合わせてもらっていますが、阪本さんには、たくさんのことを教えてもらいました。彼は「セールスは断れたら、おしまいだ」といいました。あわてて売りこむと、すぐ断られてしまいます。
 断った経験は、だれでもたくさん持っていると思いますが、そういうときは実に不愉快な気持ちになっているものです。セールスマンは売りたいに違いありませんが、客は、すべてのセールスマンから買うわけにはいかないのです。その確率は1パーセント以下ではないでしょうか。
 私の事務所にもずいぶんセールスマンが来ますが、そういうセールスマンから買ったことというと、二十年の間にリコーとキャノンと他に二社からしか買ったことがありません。つまり、二十年で五回、平均して四年に一回にすぎません。飛び込みセールスの率の悪さが目につきます。
 それは、不要なもの、すでにある物を売りにくるから断わらざるを得ないのです。はっきりいって、押売りばかりです。だからすぐ断わるのです。断わるのはいやなものですが、断わられるのもいやなものです。私の事務所にいた梅宮和男コンサルタント(故人)は、梅宮流販売術を開発してヒットさせた人です(『新規開拓必勝マニュアル』 PHP研究所)が、彼はいつも「売りこみをするのはタブーだ」といっていました。
                     
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 セールスマンは売るのが仕事です。それなのに「売りこみをしてはいけない」というのであっては、何をしたらよいのかととまどわれることでしょう。そのことに悩んでいるだけではだめです。悩んで葛藤して、その壁を突き抜けることが大切です。その壁を突き抜けるための手がかりとして「商品を売るな。セールスマンを売れ」という言葉があります。この言葉を知っている人は時々いますが、禅問答のようなもので意味ということになると「さっぱりわからない」ということが多いものです。
 でも、この言葉は大切です。セールスのカギが、その言葉の中にあります。だから、この言葉を思いつづけていてください。そうすると、いつか(こういうことだったのか!)と体でわかるときがやってくるでしょう。私なりに気づいたことを書くと、つぎのようになります。


■商品を売るなセールスマンを売れ


 「商品を売るな。セールスマンを売れ」という言葉は、だれがいいだしたのか知りませんが、実に名文句です。あるトップ・セールスマンが自分の一生を振り返ってみて、(そうだったのか!)と悟りの境地で見つけたものだと思います。それだけに経験が乏しいうちは、わかるようでわからないのです。
 すでにのべたように、売りこみをすると99%、すぐ断わられてしまいます。そこで「商品を売るな」というところまではよくわかると思います。
 それでは「セールスマンを売れ」とは、いったいどういうことなのでしょうか。「売れ」という言葉が強いだけに錯覚しそうになります。一つ間違うと、自分のことを宣伝したくなるかも知れません。しかし、本当の意味はそうではないのです。売りこみ、押しつけは、どのようなことであっても嫌われるのです。
 「セールスマンを売る」ということは、まず名前を覚えてもらい、親しみを持ってもらい、安心され、信頼されるようになって「あのセールスマンはすばらしい」と評価されるように努力するすべての過程を含んでいます。前にのべた梅宮和男コンサルタントは、セールスマンを売りこむ秘訣をノウハウ化し、「ラッキー・セブン・レター」というハガキ・システムを作りましたが、そのエッセンスは「自分を売るより、客を買え」という名文句の中に凝縮されています。それは「お客様の中に長所を見つけてほめると、お客様が
感動し喜んで、セールスマンの私を評価してくれるようになる」ということです。
具体的な行動のしかたとしては
①ターゲットにしたお客様に電話をし「五分でよいから会っていただきたい」と申し入れる。たった五分ならということでOKがとりやすい。
②約束した日に訪問して会ったら話しかけ、問いかけて、相手の話の中に感動のポイントを
見つけ
③五分の約束をきっちり守って、さわやかに帰ってくる
④感動したことを中心にして七行くらいのハガキを書く
このようにすると、不思議なくらい喜んでもらえるし「また来なさい」という電話がかかってくるそうです。梅宮コンサルタントは、彼自身が、たくさんの成功体験を持っていました。
 このようなことになるのは、私たちの自尊心がきわめて大きいからです。自尊心が大きいに
もかかわらず、ほめられることが少い。そのため、心が飢えています。だから、お客様の長所
をうまくつかむと、予想以上の効果があるのです。
 お客様に好かれるようになると、売れるようになります。それが「商品を売るな。セールス
マンを売れ」ということなのです。


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